更新 : 2008.01.20

光学機器上のグリース記号


本コンテンツ作成にあたってご意見をいただいた「Wehrmacht-Awards.com Militaria Forums」のメンバーに深く感謝申しあげます。(KenT)


グリースの種類

 第二次世界大戦におけるドイツ軍は、特に東部戦線等における極低温下での未経験さから、いくつものタイプの光学機器用の耐寒性グリースを採用したことが知られている。改良は独ソ戦開始前から戦争後期に至るまで継続され、新しいタイプに対応する新しい記号が光学機器上に刻印された。
 それらの記号の概略は下記のとおりである。
  1. 「K.F.」
     これは最初期に見られるもので、耐寒性グリース「Busch C型(Busch-C-Fett)」、または当時新開発の「インヴァロール(Invarol)」が使用されていることを示し、-20℃までの耐寒性能があるとされた。これらの使用については、軍報「Allgemeine Heeresmitteilungen」上にて、1940年5月27日付けで通達されている。
  2. 「○」(hellblaue Kreisflaeche:水色の円)
     次に登場した記号は、円形の刻印である。これはヴァキュームグリース(Vakuumfett)1416が使用されていることを示し、-40℃までの使用に耐え得るとされた。この記号について最初に言及しているのは、1942年8月5日付発行の冬期戦用マニュアル「Taschenbuch fuer den Winterkrieg」である。


     極初期のZF41T型上の「K.F.」と
     後年追加された「△」
      ZF41U型上の「○」(水色)

  3. 「+」(hellblaues Kreuz:水色の十文字)
     上記のVakuumfett1416については、すぐに何らかの問題が発生したものと思われる。なぜならば、発行されたばかりの冬期戦マニュアルは再び1942年11月1日付で改訂され、そこでは新たな記号「+」が追記されているからである。この追記に関する説明はなく、その理由は不明であるが、この記号を刻印された機器は-40℃まで問題なく機能するという他に、次のとおり記述されている。「今後、軍の観測・計測機器はすべて機器グリース(Instrumentenfett)1442のみを適用する。」
  4. 「△」
     それにも関わらず、1943年後半に更なる記号「△」が登場した。この記号に関する当時の文献資料は現在のところ見い出せておらず、その名称や性能は明らかではない。ただ、その出典は明らかでないものの、「-40℃から50℃までの適応能力がある」との情報を得ている。
ZF41/1上の「+」(水色) ZFK43(GwZF4)上の「△」(水色)


グリース記号による製造年の推定

 各メーカーの工場において実際に各グリースを適用された日は、それぞれの工場によって異なるかもしれないが、上記の順番で適用されたことは少なくとも間違いないところである。また、文書の発行日はグリースが実際に採用された日を示すものではないが、それらが極端に異なるものでもないことは推測できる。そこで、光学機器上のグリース記号に基づいて、そのおおまかな製造年の推定を下記のとおり行った。
  • K.F.:1940〜41年
  • ○:1942年
  • +:1942〜43〜44年(主に1943年)
  • △:1943〜44〜45年(主に1944年)
 もう一つ追記すべきことは、光学機器はしばしば製造後の修理や調整時に新たなグリースが施され、それに伴って対応する新たな記号が打たれたということである。このため一つの機器で2つ以上のグリース記号が見られることは決して珍しくない。しかし、もしもどの記号が製造時点当初からのものであるか判別できれば、上記基準よりそのおおまかな製造年の推定が可能である。それに当たっては、機器上に見られるその他の刻印に関する研究がその助けとなることは間違いない。

   

グリース記号とその色

 Peter R. Senichは著書「The German Sniper 1914-1945」において、GwZF4照準鏡上に見られる「△」の色はその機器で使用されているグリースが対応する適切な気候条件を示していると述べている。すなわち、白は一般的な中央ヨーロッパ、緑は熱帯地域、そして青は極低温地域を示すということである。しかしながら彼はその出典を述べておらず、私は特に白と緑に関して当時の文献資料を今のところ見出すことができないでいる。それらの色について私はいくつかの点から少々疑問に思っている。なぜ彼らは戦線がドイツ国境に近づきつつあった1944年に3種類ものグリースを使い分けなければならなかったのか? また、なぜ今日現存するGwZF4のほとんどは白ではなく青(水色)の「△」であるのか?もちろん、白や緑の実例も聞いたことがあるが、それらはかなり希である。さらに付け加えると、双眼鏡に関してはグリース記号の色(やはり水色が多く見られるが)には何も意味がなく、ただ単に記号を際だたせるだけのものであるとする意見もある。



その他未確認の記号
  1. 「(K)」
     この記号は、最初期のZF41(Type1)2種において見られる。一つはメーカー名である「Busch Rathenow」が刻印されたタイプで、もう一つはそのメーカー名がコード「cxn」に替わったものである。この「(K)」は常に「1,5 x 1,3゚(K)」という形で刻印されている。Richard D. Lawは著書「Backbone of the Wehrmacht Volume II」の中で、これが「Kaeltefest」(耐寒仕様)を意味していると推測しているが、私自身は確信がもてない。2種の内、「cxn」タイプは当初から「K.F.」の記号が刻印されていると思われるからである。ちなみに、この「(K)」は、双眼鏡その他光学機器においては確認されていない。
  2. 「×」(赤色)
     この赤く着色された「×」は、大型の対空用双眼鏡DF10x80においてのみ見られる。この記号は、その機器が先の「K.F.」グリースに替えて新たなグリースが適用されたことを示すと言われる。つまり、この赤「×」は「K.F.」あるいは「○」以後に採用されたことが言えそうである。しかしながら「+」や「△」との関係や、その名称・適合性等、さらになぜこれが10x80においてのみ見られるか等、不明な点は多い。


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