■Zielfernrohr 39について "Zielfernrohr 39"(望遠照準鏡39型)、略してZF39は、再軍備宣言後の新生Wehrmachtにおいて初めて番号を与えられた制式照準望遠鏡であるが、この後に続くことになる ZF40以降のものとはやや異質な存在である。それは、照準鏡本体、マウント共に当初は民間開発されたものを後付けで制式採用している点である。具体的には、照準鏡は1920年代後半に発表された光学機器メーカーCarl Zeiss製の"Zielvier(ツィールフィア)"、マウントは1930年代にそのZielvier等と組み合わされてアルゼンチン等海外へ 輸出された狙撃銃において見られる、"Low Turret Mount(以下、LTMと称する)"と研究者やコレクターから呼称されるタイプである。このLTMの起源はそれを説明する資料が見い出せないものの、Mauser型小銃の主要なメーカーであったOberndorfの Mauser Werkeによる開発ではないかと推測できる。 ZF40以降の制式照準鏡と異なり、本体に"ZF39"と刻印されたものは一切存在しない。このことも、ZF39が既存の照準鏡の再利用であったことを物語っている。 当時の文献で、ZF39を説明しているものは、Heereswaffenamt(陸軍兵器局)発行の1940年1月22日付け操作マニュアルD134"Das Zielfernrohr39 (Zielvier) fuer den Karabiner 98k"だけである。このマニュアルにおいては、ZielvierがLTMと共に説明・図示されている。このことをもって、ZielvierとLTMの組合せを"ZF39"と呼ぶことは、少なくとも間違いのないことと考えられる。 一方、Karabiner 98kと共に使用された4倍率民間型スコープを、スコープ種類を問わず、すべて"ZF39"と呼称する文献が多数見受けられる(*1)。また、あらゆるマウントのタイプを含めて"ZF39"と呼称する例もある(*2)が、私はZielvierとLTMの組合せのみを"ZF39"と呼称することとする。いずれにしても、D134 においては、ZielvierとLTMについて説明するにとどまり、他のタイプの照準鏡やマウントについては全く触れていない。 また、"Zielvier"を「4倍率民間型照準鏡」すべてを指す総称とする文献が海外においても複数ある(*3)が、これは基本的に誤りである。Zielvierは有名な光学機器メーカー Carl Zeissが製造した4倍率スコープの製品名(商品名)で、同社製品には他にも6倍率のZielsechs、8倍率のZielachtなどが存在した。これらは、1920年代から1930年代にかけて、第二次世界大戦の勃発により中断されるまで米国等海外へ狩猟やスポーツ用途として多数輸出されたことでも知られている。 この時代、ドイツにおいては多数のメーカーにより多種多様なスコープが生産、輸出されていた。その中で、特にZielvierを選んでZF39として制式採用した理由は記録されていない。ただ、一つにはCarl Zeissが当時既にドイツを代表するメーカーで、Zielvierが軍の求める品質と生産数を満足するものであったためということが想像される。また それが故に、ヴァイマール共和国Reichsheerの下、1927年10月1日よりZielvierが配備される旨、9月16日発行の軍機関紙"Heeres Verordnungsblatt"に記載がある(*4)ように、 Karabiner 98bとの組合せでの使用されていた実績と、それに伴い在庫が多数あったためということも想像される。 また、1939年の開戦前夜、陸軍兵器局は在庫するKarabiner 98kの内より特に射撃精度の高いものを選択し、在庫に加えて購入もしくは徴収した照準鏡及びマウントと組み合わせて狙撃銃を作り上げたと言われるが、それがZF39と呼ばれたか否かは別として、それらの中にはZielvier以外の照準鏡や民間用マウントも含まれていたことは間違いないところである。 このような狙撃銃の製造能力をもつ兵站所は、Spandau、Koenigsberg、Hannover の3箇所にあったとされ(*5)、D134中にも射撃精度の落ちた銃身の交換や交換部品の調達は上記兵站所にて行うよう記載がある。 しかし、第二次世界大戦開戦後は供給量を増やすため、Karabiner 98kの製造メーカーに直接狙撃銃の製造を行わせるようになった。このTurret Mount型狙撃銃の製造は、後に登場する"High Turret Mount"型も含めてMauser Werke Oberndorf(メーカーコード:byf)とJP Sauer & Sohn(メーカーコード:ce)において行われたとされる(*6)。 |
NEXT |
CONTENTS |
HOME |
(*1) | 文献A、D、K 等 |
(*2) | 文献J、1 |
(*3) | 文献C、J |
(*4) | 文献C、p.7 |
(*5) | 上記、p.37 |
(*6) | 上記、p.54 |
■参考文献リスト |