■その概説と評価(続き) 実戦では、ZF41系はZF41またはZF41/1としてKarabiner98kとの組合せ(Karabiner98k−Zf41)で最も多く用いられた。 その取扱説明書"Merkblatt ueber den Karabiner98k-Zf41"(1941年4月26日付)では、銃の目的として「特に小さいか、さもなければ重要な戦闘時の標的に対して正確な射撃を可能とする」と書かれている(*1)。また、マニュアルD136/1 "Karabiner98k-Zf41(Zielfernrohrgewehr) und Zielfernrohr 41(Zf41)"(1942年2月10日付)では「戦闘中に小さな標的あるいは裸眼で捉えがたい標的に対して用いる」とある(*2)。 これに対して4倍率の本格的狙撃用望遠照準鏡であるZF39のマニュアルD 134(1940年1月22日付)ではその目的を「特別に重要な標的に対して狙撃手の一撃(Scharfschuetzen Einzelschuesse)を用いることによって部隊に戦闘能力を与える」(*3)としており、両者の書き方には明らかな違いがある。 このようにK98k-Zf41すなわちZF41系は、通常の戦闘時に精密な射撃能力を与える兵器として設計され、軍当局もそのつもりで採用したということが言えよう。 一方、実際にK98k-Zf41はどのように用いられたか。 これは、どの参考文献を見ても、設計の意図に関わらず、訓練された狙撃兵の手により本格的狙撃銃として用いられたことが示されている。 当時の文献資料では、K98k-Zf41を明確に本格的狙撃銃として位置付けしているものは見られないとのことである(*4)が、その一方で1943年にかけての多くの狙撃訓練マニュアルやパンフレット上でK98k-Zf41が言及されているとも言われる(*5)。 つまり、正式に宣言されたわけではないが、実質的に現場では使用されるようになったということが言えるのではないだろうか。 いずれにしても狙撃訓練施設においてK98k-Zf41も射撃訓練に用いられていたことは間違いなく、その状況や実戦活動中の写真も多く残されている(*6)。 このことより結局、戦場で求められていたのは何よりも多くの本格的な狙撃銃であり、K98k-Zf41すなわちZF41系照準鏡の設計意図は現場のニーズを十分に反映していなかったということが言えそうである。 今としてみれば、時期としてはちょうど独ソ戦が開始され、赤軍の狙撃兵が徐々に脅威となりつつあったということで、その要望は切実なものであったことは想像に難くない。当然のことながら、K98k-Zf41では赤軍の4倍率のPEや3 .5倍率のPU望遠照準鏡に対抗するには遠く及ばず、ドイツ狙撃兵からの評価は低いものであった。 この結果、ZF41及びZF41/1の支給を1943年12月末で中止するとの文書が存在することが示唆され(*7)、さらに1944年7月26日付の文書において、今後はK98k-Zf41を望遠照準鏡付騎兵銃(Zielfernrohrkarabiner)としてではなく、単なる騎兵銃(Karabiner)として扱う旨が述べられるに至る(*8)。 このように、K98k-Zf41は本格的な狙撃銃を必要とする狙撃兵に支給されて不評を買った一方、必要としていた歩兵分隊の上級射手の手には渡らなかったと言われている(*9)。しかしながら、分隊配備の火器として使用されている実例も当時の記録写真(*10)で確認できることから、全く支給されなかったのではないことも明らかである。 ここで本節の最後に当たって、インターネット上で動画として公開されている興味深い実験を紹介したい。 これは、K98k-Zf41の有用性を確認するために、二人の射手がそれぞれ弾を5発ずつ用意し、距離の異なる4つの標的に的中させるのに何秒かかるか、スコープ使用の場合とスコープなしのメタルサイト使用の場合とで、そのスピードを計測するものである。距離は、50ヤード(約45m)、60ヤード(約54m)、80ヤード(約72m)、105ヤード(約95m)の4つで、近いものから的中させながら遠くしていく。 その結果、スコープ使用の場合は二人とも1発も外すことなく、10秒から20秒以内ですべての標的に的中させることができた。これに対して、メタルサイトのみの場合は、二人とも30秒以上かけても5発では80ヤードの標的まで的中させることができなかった。 この結果を受けて、K98k-Zf41は確かに遠距離の狙撃用途には不向きかもしれないが、通常の戦闘時における比較的短距離の小さな標的を的確に射撃していくには十分な能力をもっていると、二人とも高評価を与えている。 さらに、この実験ではもう一つ確認を行っている。 ZF41の複雑なゼロイン調整には、かなり苦労をしたとのことだが、一度外したスコープを再装着した場合にゼロ点のズレが生じないか、最後に再びスコープを装着して射撃を行っている。その結果、50ヤードと100ヤード、いずれも1発で的中させ、ズレが生じていないことが見事に証明されている(*11)。 |
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(*1) | 文献 ii p.1 |
(*2) | 文献C p.78 |
(*3) | 上記 p.42 |
(*4) | 上記 p.140 |
(*5) | 文献F p.185 |
(*6) | 一例として、当サイト掲載 Picture 3 参照。 |
(*7) | 文献F p.185。この文書の存在の一方、筆者Senichは、ZF41用レールを備えたK98kは1945年まで製造が継続しているとして、この文書の実効性は不明とするが、私はシリアルナンバー調査の結果等より、1944年以降は少なくとも照準鏡(ZF41、ZF41/1)そのものの製造数は急減していると推察する。 |
(*8) | 文献C p.98 |
(*9) | 上記 p.72 |
(*10) | 例として当サイト掲載 Picture 9-14 、 Picture 15 参照。 |
(*11) | Testing The ZF-41 German WWII Scout Scope (Full30.com) ただし、実際に使用しているスコープそのものはZF41(厳密にはZF41/1)の複製品である。 |
■参考文献リスト |